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岐阜地方裁判所 平成7年(ヨ)2号 決定

主文

一  債権者らの申立てをいずれも却下する。

二  申立費用は債権者らの負担とする。

理由

一  債務者市が合戸池の一部を埋め立てて、そこに配水池を建設することを計画したこと、債務者会社が右計画(本件計画)に基づき平成七年一月六日に合戸池に配水池を建設する第一段階の工事として合戸池の一部を埋め立てる用地造成工事(以下「本件用地造成工事」という。)に着手したこと、債権者らが合戸池の周辺に居住する住民であり、居住環境の悪化、環境の破壊等を理由に本件計画に反対してきたことはいずれも当事者間に争いがなく、右各事実に《証拠略》を総合すれば、次の事実が一応認められる。

1  現在本件配水池の計画給水区域の大部分に給水している鵜沼台配水池(配水池とは、一般家庭に適正な水圧で給水するために水を貯える施設であり、平常時の安定供給、異常時の給水対策の機能を有するものである。)は、もともと現在の半分にも満たない地区への配水を目的として建設されたものである。その後の大型宅地開発に伴う水需要の増加に対してはポンプ能力の増強のみで対処してきたが、将来更に水需要が増加することが予想され、災害時の給水を含めて市民生活への安定給水を図るためには、新たな配水池の建設が必要な状況にある。

また、宝積寺団地では給水開始の早い時期から水圧が低い状況にあり、あるいは、適正な標高の配水池がないために、鵜沼台及び新鵜沼台の低位地区では鵜沼台配水池からの水圧の高い水を減圧して配水し、緑苑南地区の一部では他の配水池からの水圧の高い水を供給している状況にあることから、これらの地区の配水計画を見直し、適正な位置に配水池を建設することが必要である。

更に、緑苑地区については、水源地から最も離れた高所にあることから、いくつものポンプ場を経由して給水している状況にあり、また、給水人口が多いことから、施設の故障、火災、地震などによつて多くの市民生活に影響を及ぼすことが想定されるため、安定給水を図るには送水を二系統化する必要がある。また、緑苑地区及びその周辺地区の災害時における給水拠点としての機能を持つ施設を整備する必要もある。

これらの諸事情に加え、鵜沼台配水池へ送水するポンプ及び電気設備の更新や非常用の発電機の整備が必要であることから、債務者市において、鵜沼台地区の大半、新鵜沼台地区、鵜沼宝積寺地区及び緑苑地区の各一部を計画給水区域とする配水池を建設する計画が立てられた。その計画給水人口は約七〇〇〇人、その中継機能や非常時を含めた場合に影響が及ぶ計画給水人口は約一万八〇〇〇人である。

そして、債務者市では、〈1〉配水池に必要な高さ(標高)が確保できること、〈2〉緑苑地区への配水系統を二系統化するには、現在稼働している受水池(受水池とは、高所の配水池へ水を送るための中継所である。)に隣接して配水池を設置することが機能的にも、費用的にも合理的であること、〈3〉鵜沼台配水池へ送水するポンプ設備の更新や非常用発電設備の設置等を考慮すると、既存受水池設備と合わせて建設した方が合理的であることなどの理由により、債務者市の所有する合戸池の北西部がその建設場所として最適であるため、そこを埋め立てて配水池を建設することを計画した。

2  債務者市は、平成四年一二月二七日、各務原市緑苑地区の各自治会(これらの連合体が緑苑自治会連合会である。)の役員に対し、本件計画の概要を説明して、本件計画の存在を明らかにして以来、同連合会と協議を重ね、また、同連合会を通じて本件計画の概要を記した文書を地元住民の回覧に供したり、説明会を開いたりするなどして、地元住民に理解を求めてきた。これに対し、債権者井上浩助、同大橋肇、同藤井義裕及び同若杉蕃は、平成五年二月二一日、同人らを発起人代表として「各務原の自然を考える会」を結成し、それ以来、緑苑自治会連合会を窓口として、あるいは直接に、債務者市に対して本件計画の見直しを求めてきた。

こうした中で、「各務原の自然を考える会」、緑苑自治会連合会あるいは地元住民から自然の破壊、配水池の圧迫感についての意見が出されたことから、債務者市は、これらの点を考慮し、次のような対策を採ることとし、それを地元住民に約束した。

(一)  合戸池の埋立及び樹木の伐採を必要最小限に留め、自然をできるだけ残すため予定地東部分の埋立を中止する。

(二)  西側道路面から見た配水池の高さを約一・五メートル下げる。

(三)  配水池上部の構造を変更し、外観に配慮する。

(四)  構造物の塗装等は、周辺景観と調和するように配慮する。

(五)  計画敷地内に可能な範囲で樹木を植栽するとともに、広場を整備し、人と自然とのふれあいの場所を作る。

3  本件計画では、合戸池の北西部の一部を埋め立てることになるが、その埋立面積は約二三〇〇平方メートルで、合戸池全体の一割弱である。

また、本件配水池の形は、ほぼ円筒形で、上部が丸まつた形となり、その規模(右2で変更された後の規模)は、直径二八・九五メートル、高さ八・六四メートルとなる。この高さは、ほぼ二階建住宅の高さに相当する。

4  本件工事が完了した場合の本件配水池と付近の住宅との位置関係は別紙図面一及び二のとおりである。本件配水池用地の東面は池を隔てて約五メートルの高さのブロックで積み上げた擁壁の上の住宅に接し、南面は池に面し、西面は道路を隔てて住宅に接し(本件配水池用地の地盤高は、右道路とほぼ同じ高さになる。)、北面は公園及び既設受水池(高さ約六・五メートル)に接することになる。

なお、本件配水池と最も近い住宅との距離は、三五ないし四〇メートルになる。

5  本件工事は、合戸池の底の切土、盛土及びコンクリート構造物の築造を内容とする。債務者市は、平成六年一二月二八日、本件工事のうちの本件用地造成工事(合戸池の底の切土及び盛土)について債務者会社と請負契約を締結し、債務者会社は、平成七年一月六日、合戸池の北西部において工事を開始した。本件用地造成工事は、作業時間が午前八時から午後五時までで、完成が同年三月三一日の予定である。

6  本件用地造成工事(地盤の岩石帯に杭等を打つような工種は含まれていないから、地盤を揺るがすような工事はない。)の中では既設コンクリートブロックの取壊工事(油圧ブレーカーの使用)が最も振動及び騒音を発生させるものであるが、それらは平成七年一月一七、一八日に大部分を実施済みであり、本件第二回審尋期日である同年二月三日現在、あと半日分を残すのみである。なお、債権者らからの右取壊工事に係る苦情に対して、債務者らは、直ちに鉄パイプ、ビニールシートによる簡易遮音壁を設置した。

ところで、本件仮処分申立事件において、債権者らが本件工事に伴う振動などにより債権者大橋肇の住宅が傾き始めている旨主張していることから、債務者らは、同年二月四日、既設コンクリートブロックの取壊作業を試験的に行つて、振動の状況を調査した。債務者らが債権者大橋肇の住宅において振動測定器を用いて振動を測定したところ、振動の大きさが東西方向、南北方向及び垂直方向とも振動計測器の測定限界(二五デシベル)以下であつた。また、同様の測定を工事現場に最も近い住宅で行つたところ、振動の大きさが六〇デシベル以下であつた。六〇デシベルは、人間が振動を感じ始める程度の振動であり、気象庁震度階では静止している人や特に地震に対して注意深い人だけに感じる程度の振動とされている。

なお、債権者らは、右調査の際、債権者大橋肇の住宅において水平器を用いて床の傾きを調査し、「下振(さげふり)」を用いて壁の傾きを調査したが、いずれも異常は認められなかつた。

7  本件用地造成工事の作業時間は、前示のとおり午前八時から午後五時までであるが、債務者会社は、打設したコンクリートが過剰な水分を含み脆弱になるのを防ぐため、右作業時間以外にも電動小型ポンプを稼働させて池の底部に地下水が溜まらないようにしている。ただし、付近住民からモーター音がうるさいとの苦情があつたことから、その後、債務者会社は、午後九時以降電動小型ポンプを稼働させていない。本件第三回審尋期日である平成七年二月七日現在、その後の天候を考慮に入れても、電動小型ポンプを稼働させる必要があるのはあと七、八日間である。

8  なお、既に排水管及びコンクリートブロックの基礎工事のため基盤まで掘削作業をしている。そのため、既設のコンクリートブロック(基礎まで含めて約五・五メートル)を取り壊し、土の部分が露出している。合戸池は農業用溜池であるので春になると池に再び水を溜めなければならないが、本件工事が差し止められた場合、長期間現在の状態で放置されることになり、再び上昇してきた水により掘削した斜面が崩壊することになる。したがつて、本件用地造成工事を進行させ、早期に新設のコンクリートブロックを積み、盛土をして、斜面を安定させることが必要である。

二  そこで、右認定事実を前提にして、債権者らの権利侵害あるいはそのおそれを理由とする本件申立ての当否について検討する。

1  差止請求権の根拠

(一)  一般に、建造物の建築工事等により所有権等の物権や人格権が侵害され、あるいは侵害される蓋然性が大きい場合、被害者は加害者に対してその侵害行為の差止めを請求し得る場合があるが、右物権や人格権が絶対的権利であつても、すべての権利は社会との関わりにおいて存在するものであるから、右差止請求権が成立するのは、右侵害が社会生活上受忍するのを相当と認められる程度を超える場合に限られるものと解するのが相当である。そして、特定の侵害行為が右要件を充たすかどうかについては、侵害行為の態様、程度及び継続性、被侵害利益の内容、性質及び程度、侵害を生ずべき行為の社会的有用性ないし公共性、地域性、被害防止の可能性、その防止のためになされた努力の程度などの諸般の事情を総合的に比較衡量してこれを決すべきである。

(二)  ところで、債権者らは、本件工事の差止請求権の根拠として眺望権を主張している。

一般に、眺望は、風物がこれを見る者に美的満足感や精神的安らぎ等を与える点において、人間の生活上少なからぬ価値を有するが、眺望の利益は、当該場所の所有ないし占有と密接に結びついた利益であり、その場所の独占的占有者のみが事実上享受し得ることの結果として、その者に独占的に帰属するにすぎず、その内容は、周辺における客観的状況の変化によつておのずから変容ないし制約を受けざるを得ないものである。したがつて、眺望の利益は、常に法的保護を受けるものではなく、特定の場所がその場所からの眺望の点で格別の価値を持ち、眺望の利益の享受を一つの重要な目的としてその場所に建物が建設された場合のように、当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合にはじめて、法的見地からも保護され得るものというべきである。そして、眺望利益が法的保護に値する場合であつても、その侵害の排除を認める形で法的保護を与え得るのは、右(一)のとおり、侵害行為が社会生活上受忍するのを相当と認められる程度を超える場合に限られるものと解すべきであり、なおその際には、眺望の侵害が騒音、大気汚染、日照阻害等ほどには生活に切実なものではないことに照らして、その評価につき特に厳密であることが要求されるといわなければならない。

(三)  なお、債権者らは、本件工事の差止請求権の根拠として環境権を主張するが、環境権なる権利は、実体法上その規定がなく、権利の主体、客体及び内容が不明確であるから、これを私法上の権利として認めることはできない。

2  具体的な検討

(一)  環境権侵害について

右のとおり、環境権を私法上の権利として認めることはできないから、その侵害を理由として本件工事の差止めを求めることはできない。

(二)  眺望権侵害について

(1) 債権者らは、特に権利者を特定することなく眺望権の侵害を主張しているが、疎明資料によれば、債権者らのうち合戸池に面した場所に住宅を構え、合戸池を中心とする眺望に何らかの利益を有すると推測される者は、債権者大橋肇、同井上浩助、同藤井義裕及び同若杉蕃(以下右債権者四名を一括していうときは、「債権者大橋肇ら」という。)だけである。その余の債権者らは、合戸池に面した場所に住宅を有しておらず、合戸池を中心とする眺望について利益を有することの疎明がないから、その余の点を検討するまでもなく、眺望の阻害を理由として本件工事の差止めを求めることはできない。

(2) そこで、債権者大橋肇らについて検討する。

債権者大橋肇らの住宅と本件配水池との位置関係が別紙図面一及び二のとおりであることは前判示のとおりである。そして、《証拠略》によれば、債権者大橋肇らが現在居住している地域が第二種住居地域であること、債権者大橋肇らの住宅から合戸池を望むことができること(特に債権者大橋肇及び同井上浩助の住宅からは合戸池を一望できること)、債権者大橋肇らが現在の場所に住宅を建設したのは、いずれも合戸池に面し、合戸池を望むことができる位置であることがその大きな理由であること、債権者大橋肇及び同井上浩助については、業者が宅地の分譲に当たり「水と緑の合戸池を一望」と宣伝していたことが一応認められる(ただし、債権者藤井義裕及び同若杉蕃については、宅地購入の際に業者がどのような宣伝文句を使用したか明らかでなく、また、住宅からの眺望の内容も必ずしも明らかではない。)。

しかしながら、他方において、〈1〉本件配水池の建設は、市民に水を安定して供給することを目的としたもので、大きな公共性を有しており、しかも、右目的を達成するためには現在債務者らが工事をしている場所(合戸池の北西部)が最適であること、〈2〉右場所は債務者市が自ら所有する土地であること、〈3〉債権者大橋肇らの住宅と本件配水池との位置関係(別紙図面一及び二のとおり)からみて、本件配水池が建設されても、債権者大橋肇らの合戸池に対する眺望がすべて阻害されるわけではない(特に、合戸池を一望できることが一応認められる債権者大橋肇及び同井上浩助についていえば、合戸池に対する眺望が阻害されるのはほんの一部にすぎない)こと、〈4〉付近の宅地の分譲に当たり「水と緑の合戸池を一望」という宣伝が使用されているが、それは宅地を分譲した名鉄不動産(合戸池の所有者でも、水利権者でもない。)が使用したものにすぎず、右宣伝に債務者市が関与しているわけではないこと、〈5〉一般に、住宅地における眺望は、別荘地や観光地などにおける眺望ほどには格別の価値を見い出し難いこと(なお、本件において、眺望が阻害されることによつて債権者大橋肇らの住宅に係る土地・建物の価格が下落するか否か、下落するとすればその程度はどうかについては、疎明がない。)、〈6〉本件配水池は、最も住宅に近い西側において住宅から既存道路及び公園用地を隔てることになり、最も近い住宅との距離が三五ないし四〇メートルとなるし、債務者市が本件配水池の圧迫感を軽減させるため様々な配慮をしていることなどの事情があり、これらの事情に照らすと、本件配水池の建設による債権者大橋肇らの眺望の阻害は、いまだ受忍限度を超えるものということはできない。

なお、債権者らは、名鉄不動産が宅地開発した際、債務者市がそれに合わせて配水池の設置等について行政指導をしたのであるから、宅地が分譲され、かかる住環境を信頼して宅地を購入した者が現れた後になつて合戸池に配水池を建設することは、従前の行政指導に反する禁反言的行為であり、信義則上許されない旨主張するが、そもそも債務者市が右主張のような行政指導をした事実の疎明はない。

したがつて、債権者大橋肇らも、その眺望利益の阻害を理由に本件工事の差止めを求めることはできない。

(三)  本件工事による宅地崩壊のおそれについて

債権者らは、本件工事が実施されている場所は砂防指定地であるが、本件工事に伴う振動、湧水の流出及び合戸池の水位の低下に起因して合戸池周辺の宅地が崩壊するおそれがあり、現に債権者大橋肇の住宅が傾き始め、同債権者及び債権者井上浩助の自宅の庭先等に亀裂が生じるなどしており、同債権者らの住宅の敷地を含めた付近一帯の宅地が崩壊する可能性が大きい旨主張する。

しかしながら、前判示のとおり、債務者らが本件用地造成工事の中で最も大きな振動を発生させる既設コンクリートブロックの取壊作業を試験的に行つて振動の状況を調査した結果、債権者大橋肇の住宅における振動の大きさが振動計測器の測定限界(二五デシベル)以下であり、工事現場に最も近い住宅でも振動の大きさが六〇デシベル以下であつたのであるから、本件用地造成工事に伴う振動により付近の宅地が崩壊するおそれがあるとは考え難い。また、振動の他に湧水の流出及び池の水位低下という要因が加わることによつて付近の宅地が崩壊するおそれがあることの疎明もない。

なお、債権者らは、宅地崩壊の危険性があることを疎明するため、道路、庭先のコンクリート、石垣などに亀裂の入つた写真を疎明資料として提出しているが、一見して本件工事開始後に生じたものとは考えられないものも含まれており、右亀裂と本件用地造成工事との因果関係の存在についての疎明は十分でない。また、同様に、本件用地造成工事に伴い道路に亀裂が入り、また、池側の地盤が沈下している旨の記載のある報告書を疎明資料として提出しているが、これを明確に否定する債務者らの疎明資料に照らし、採用することはできない。

また、本件用地造成工事後、それに引き続いて配水池建設工事が行われることになるが、右工事によつて債権者らの宅地が崩壊するおそれがあることの疎明はない。

したがつて、債権者らは、本件工事による宅地崩壊のおそれを理由に本件工事の差止めを求めることはできない。

(四)  本件工事による騒音の被害について

債権者らは、本件工事では騒音に対する対策がとられておらず、債権者らは騒音による被害を受けている旨主張する。

しかしながら、本件用地造成工事に伴う騒音がいかなる程度であるかを示す客観的な疎明資料は全くない。また、債権者らが提出した疎明資料の多くは本件用地造成工事の中で最も騒音が生じた既設コンクリートブロックの取壊工事に関するものであるところ、その大部分は既に平成七年一月一七、一八日に施工済みであり、平成七年二月三日現在、あと半日分を残すのみである。そして、それに加えて、〈1〉本件配水池の建設は、市民に水を安定して供給することを目的としたもので、大きな公共性を有しており、しかも、右目的を達成するためには現在債務者らが工事をしている場所(合戸池の北西部)が最適であり、その計画及び工法に不合理な点もないこと、〈2〉現在施工されている本件用地造成工事は平成七年三月三一日までに完了する予定であり、さほど長期間を要するものではなく、前示簡易遮音壁も設置されていること、〈3〉本件用地造成工事の作業時間は午前八時から午後五時までであり、早朝及び夜間を避けており、また、午後五時から午後九時まで水を抜くために電動小型モーターを稼働させる場合もあるが、それは水路補修工事で一般的に行われていることであるし、平成七年二月七日現在、その後の天候を考慮に入れても、電動小型ポンプを稼働させる必要があるのはあと七、八日間にすぎないこと、〈4〉既に掘削した斜面の崩壊を防ぐためには、用地造成工事を進行させ、早期に新設のコンクリートブロックを積み、盛土をして、斜面を安定させることが必要であることなどの事情があり、これらの事情を考慮してもなお本件用地造成工事の騒音が受忍限度を超えていることを一応認め得るだけの疎明はないといわざるを得ない。

また、本件用地造成工事後に引き続いて行われる配水池建設工事が債権者らの受忍限度を超える騒音を発生させるおそれがあることの疎明はない。

したがつて、債権者らは、本件工事による騒音の被害を理由に本件工事の差止めを求めることはできない。

(五)  本件配水池による騒音の被害について

債権者らは、本件配水池が住宅地に接近して建設されることにより、内部水の移動による低周波騒音や水の流入時の騒音が常時発生して、債権者らに被害を及ぼすおそれが大きい旨主張するが、その疎明はない。

したがつて、債権者らは右被害を理由に本件工事の差止めを求めることはできない。

(六)  本件配水池建設後の建物崩壊のおそれについて

債権者らは、本件配水池が建設された場合、台風時にその円形のタンクにより東風の風速が加速され、債権者藤井義裕及び同若杉蕃の住宅が崩壊するおそれがある旨主張するが、その疎明はない。

したがつて、債権者らは右危険性を理由に本件工事の差止めを求めることはできない。

三  なお、債権者らは、本件工事に至る手続きが不公正であるから、本件工事は差し止められるべきである旨主張するが、本件工事に至る手続きが不公正であると一応認め得るだけの疎明はないし、仮に右手続きに何らかの不公正があつたとしても、いかなる法的根拠により債権者らに本件工事の差止請求権が発生するのかも明らかではないから、右主張は失当である。

四  よつて、債権者らの本件申立ては、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを却下することとし、申立費用の負担につき民事保全法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 日高千之 裁判官 鍬田則仁 裁判官 伊藤 繁)

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